内転筋の肉離れの治療

目次

内転筋の肉離れの解剖学的所見

内転筋の肉離れは、肉離れ全体としてみると太ももの裏(ハムストリング)、大腿四頭筋、下腿三頭筋の次に多くみられます。内転筋はどこにあって、どのような働きや特徴を持つ筋肉であるのか、内転の肉離れはどのようにして起こるのか、内転筋の肉離れの解剖学的みていきましょう。 

内転筋とは

内転筋は、太ももの内側に位置する筋肉で大内転筋・長内転筋・短内転筋・薄筋・恥骨筋から内転筋群を成しています。大内転筋の恥骨下枝から大腿骨に付く筋肉が別の筋肉にみえることがあり、小内転筋と呼ばれることもあります。(図1 内転筋 参照)

内転筋は主に股関節の内転に作用する筋肉すが、筋肉によって股関節の屈曲、伸展、内旋にも関与しており、補助的な作用を含めると、股関節のすべての動きに関係しています。(表1 股関節動きと内転筋 参照) 

内転筋は主に切り返しや方向転換、サイドステップなどの素早い横移動の動作において、求心性収縮の働きをしています。また、外転筋との同時収縮によって骨盤の安定にも働いています。 

大内転筋(adductor magnus)

大内転筋の起始は坐骨恥骨枝と坐骨結節で大腿骨へと付着します。大内転筋は内転筋の中で一番面体積が大きな筋肉で、股関節内転の主動筋です。やや後方についており股関節の伸展にも大殿筋、ハムストリングと一緒に働きます。股関節の内旋にも中殿筋小殿筋とともに働きます。内転筋群の中では、長内転筋の次に肉離れが起こりやすい筋肉です。 

 

長内転筋(adductor longus)

内転筋群の中では、長内転筋の肉離れが最もよくみられます。 

長内転筋の起始は腸骨結合前面、恥骨結節で大腿骨粗線の内側唇に付着します。比較的長い距離を持つ筋肉です。大内転筋の前方に位置しており、股関節の内転の他、屈曲にも作用します。股関節の屈曲から伸展方向への切り返し動作時に股関節の伸展にも作用し、股関節の屈曲角度によって屈筋と伸筋の働きが切り替わる特徴を持つ筋肉です。股関節外転位では内旋にも作用し、股関節の伸展でも作用します。 

 

長内転筋は、恥骨結合関節包と腹直筋に筋膜を通しての連続性がみられ、骨盤周囲の筋肉とのバランスや体幹や骨盤との動きとも連動しているといえます。 

 

股関節の前面部に長内転筋と縫工筋、鼠径靭帯でつくられる三角形をスカルパ三角といい、この三角の中を大腿の動脈・静脈・神経が通っています。 

短内転筋(adductor brevis)

起始は恥骨結合と恥骨結節で、大腿骨粗線の内側唇に付着します。大内転筋の前方に位置し、短内転筋の前方には長内転筋と恥骨筋が位置しています。股関節の内転に働く他、股関節の屈曲と、股関節外転時の内旋にも少しだけ働きます。 

恥骨筋(pectineus)

起始は恥骨の恥骨櫛で大腿骨粗線と恥骨筋線に付着します。内転筋群の中で最も上部に位置する筋肉で、股関節の内転と、大内転筋や長内転筋とともに股関節の内旋にも作用します。恥骨筋の肉離れの頻度は多くはないですがみられることもあります。恥骨結合炎や付着部炎などを伴っていることもあります。 

薄筋(gracilis)

起始は恥骨結合の下前面と恥骨弓上部で脛骨の内側面に付着します。内転筋群の中では股関節から膝関節をまたいでつく唯一の二関節筋です。太ももの一番内側に位置する長い距離の筋肉です。股関節の内転の他、屈曲、膝関節の屈曲、内旋にも作用しますが、細い筋肉で筋体積も小さいので他の筋肉とともにわずかに働きます。 

 

薄筋は半腱様筋、縫工筋とともに鵞足を成しており、鵞足炎での原因ともなる筋肉です。 

内転筋の肉離れのメカニズム

内転筋群の中でも最も肉離れが起こりやすい筋肉が長内転筋で、次いで大内転筋の肉離れが多くみられます。 

 

長内転筋は一番前面を走行する筋肉で、走る動作では全動作を通して働いています。股関節の屈曲から伸展への切り返し動作時には伸筋としての働きがみられ、股関節の屈曲角度によって、屈筋にも伸筋にも両方作用します。長内転筋は力を効率よく発揮するタイプの筋肉で、動作スピードが速くなると太ももへの遠心力や関節が引っ張られる力が強くかかります。 

 

また、長内転筋は恥骨結合関節包、腹直筋にも筋膜的な連続性がみられることから、スポーツ動作時の体幹や骨盤の動き、姿勢とも深く関係していることがいえます。長内転筋への負担が大きくなるような体幹・骨盤の筋肉のアンバランスがあると長内転筋の肉離れが起こりやすくなると考えられます。 

 

大内転筋は走る動作において股関節の屈曲時に伸筋として働きます。大殿筋が股関節の外転に働く作用に拮抗して働き、骨盤の安定にも働いています。 

 

スプリント動作のようなダッシュでの股関節の屈曲から伸展への切り返しを繰り返す動作や方向転換やサイドステップのような動作で長内転筋、大内転筋に大きな力がかかることとなります。 

 

内転筋は外転筋の拮抗筋としても働き、骨盤の安定に働いていることから、外転筋の筋力低下や、骨盤周囲の筋肉の不均衡が起こっていると、容易に内転筋への負担が大きくなることも予測されます。内転筋への負荷が大きくかかる動作や、外転筋の筋力低下が起こっている場合に内転筋の肉離れは起こりやすくなるといえるでしょう。 

内転筋の肉離れが好発する年齢、スポーツ、性差は?

内転筋の肉離れは太ももの裏(ハムストリング)、大腿四頭筋、下腿三頭筋の次によくみられます。どのようなスポーツで、内転筋の肉離れはみられるのでしょうか。また、年齢や性別の特徴があるのかということついてもみていきましょう。 

内転筋の肉離れが起こりやすい動作

内転筋の肉離れが起こりやすい動作は、競技中にダッシュ動作を繰り返す(スプリント動作)ことや、内転筋の収縮が大きくなるサイドステップや側方への方向転換時などです。特に長内転筋、大内転筋は股関節の屈曲、伸展にもそれぞれ作用しているので、走る、方向転換、ジャンプなどあらゆる動作で負荷がかかることとなります。 

 

サッカーとアメリカンフットボールで起こった肉離れの筋肉別の発生調査ではサッカーではハムストリングの次に内転筋群の肉離れが多くみられ、アメリカンフットボールでは内転筋群の肉離れが最もよくみられたという結果もあります。(表2 サッカーとアメリカンフットボールの肉離れの筋肉別の発生率 参照) 

 

しかし別の調査ではサッカー、アメリカンフットボールとも内転筋群の肉離れがみられないグループもあることから、調査するグループによっても肉離れの筋肉別の発生頻度は異なるといえそうです。 

内転筋の肉離れが起こりやすいスポーツ

ダッシュ動作を競技の中で繰り返すスポーツや方向転換、サイドステップでの移動の多いスポーツで起こりやすいといえるので、サッカーやアメリカンフットボール、陸上、野球、アイスホッケー、水泳などがあげられます。(図2 内転筋の肉離れが起こりやすいスポーツ 参照) 

 

日本では競技人口が少ないアイスホッケーですが、筋損傷のうち43%が内転筋損傷であったという調査もあり、内転筋損傷がよくみられるスポーツです。 

 

内転筋の肉離れはフィールドの中でのスプリント動作や、素早い方向転換、切り返し動作の多いサッカー選手に多くみられ、世界的サッカー選手のリオネル・メッシ選手も2016年に内転筋の肉離れを起こしています。 

 

キック動作時のスイング時、つま先が離れてから30~45%のところで長内転筋の遠心性収縮が最大になるという報告があります。肉離れは遠心性収縮が起こるときに発生しやすいことから、キック動作をよく行うサッカーやアメリカンフットボールで長内転筋の肉離れは発生しやすくなります。 

 

とくに、より強いキックを行う場合にスイングが大きくなり、股関節の伸展角度が大きくなると内転筋の肉離れも起こりやすくなります。 

内転筋の肉離れが起こりやすい年齢と性別

内転筋への負荷が大きくかかる動作や内転筋への負荷を繰り返す動作を行うことでみられやすく、本格的にスポーツを行っている人やプロのスポーツ選手に多くみられます。性差のエビデンスを見つけることはできませんでしたが、サッカーやアメリカンフットボールでの発生がみられやすいため、競技を行っている人口が多い男性によくみられるということはいえるでしょう。 

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)と内転筋の肉離れ

サッカー選手では鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)の発症もよくみられます。内転筋群は恥骨結合部分についており、鼠径部との関連性もあります。外転筋とのバランスで骨盤を安定させて鼠径部の機能を担っています。鼠径部痛症候群と内転筋の肉離れを含む筋損傷は合併することも多くみられます。 

 

鼠径管内側部の恥骨部に起こる恥骨結合炎は、恥骨結合部にずれの力が大きくかかることや、長内転筋と腹直筋の収縮によって繰り返しかかる負荷が関係していると考えられています。 

 

恥骨結合炎と内転筋損傷は併発しやすく、内転筋の筋力低下が恥骨結合の不安定性をもたらす可能性があることもいわれています。恥骨結合炎では内転筋の痛みがみられ、抵抗をかけたときや伸ばした時、内転筋の付着部を抑えた時に痛みがみられます。キック動作で症状は悪化し、内転筋部の痛みが繰り返しみられ、機能低下を起こす悪循環へと陥りやすくなります。 

 

内転筋力の低下と外転筋力と内転筋力とのアンバランスさが骨盤の不安定性を増し、恥骨結合炎や内転筋損傷を起こしやすい状況をつくることが考えられます。 

内転筋の肉離れの症状(肉離れの軽度~重度別に)

内転筋の肉離れはスポーツ時に起こりやすく、急激に筋肉の収縮が起こる力によって、筋肉に栄養している微細な血管や筋膜、筋組織が断裂して損傷します。発生した瞬間は筋肉の違和感や痛みなどがみられ、時間の経過とともに受傷した部分の内出血や腫れがみられ、運動障害が起こります。 

 

肉離れの重症度は、痛みや受傷部分のへこみの変化、MRI画像での所見で判断できます。肉離れでみられる症状を重症度別にみていきましょう。 

肉離れの重症度別の症状

肉離れの重症度はMRI画像での血腫の大きさや部位、筋肉の損傷の程度を確認することで測ることができます。MRI画像の所見と症状から軽度(Ⅰ度)、中等度(Ⅱ度)、重度(Ⅲ度)の3つに分類することができます。 

 

軽度(1度)

Ⅰ度は軽症で筋肉そのものや筋膜には損傷はなく、筋繊維が引き伸ばされたことで筋肉へ栄養する微細な血管の損傷によって血腫がみられます。受傷部分を押さえると痛みがみられます。歩行は行えますが、走るジャンプするなどの操作で痛みが生じます。 

中等度(Ⅱ度)

Ⅱ度は中等度で筋膜や筋繊維の部分的な断裂と血腫がみられます筋腱移行部での断裂がみられることが多いです。受傷部分の圧痛や動かすことでの痛みもみられ、歩行への影響もあります。受傷部分の軽い凹みみられることもあります 

重度(Ⅲ度)

腱の断裂や腱付着部の完全な断裂がみられます。圧痛、受傷部分の凹み、動かした時の痛みも著しく、歩行障害がみられます。血腫の範囲も大きくなります。 

肉離れではどのような姿勢や動作の時に受傷したのかということによっても重症度が変わってきます。受傷時の自覚症状でも重症度を測ることができるといわれており、プチッ、ピリッといった感覚は軽症で、バリッ、ドンッ、バチンッといった感覚は腱性部の断裂が起きた可能性があり重傷とされています。 

内転筋の肉離れの検査

肉離れは受傷時の様子や受傷部分の観察、触診、ストレッチを行うことや、MRI画像検査によって重症度がわかります。 

触診

内転筋の肉離れの場合は太ももの内側の部分や股関節の内側部分、鼠径部の痛みがみられます。鼠径部の痛みがみられる内転筋腱付着部症、恥骨部結合炎やスポーツヘルニア、閉鎖神経絞扼、腸腰筋滑液包炎、腸腰筋腱炎、恥骨や大腿骨の疲労骨折などの鼠径部痛症候群との鑑別診断が必要です。閉鎖筋の肉離れである場合もあります。 

徒手検査

内転筋の肉離れは内転筋のストレッチと、内転筋への抵抗運動で痛みが増すかどうかで重症度を測ることができます。内転筋のストレッチは、股関節を外転方向に動かす(足を開く)ことで行います。内転筋への抵抗運動は、股関節内転方向(足を閉じる)方向へ抵抗をかけた運動を行います。 

 

外転方向へのストレッチでは股関節外旋位で行うか、内旋位で行うかによって筋の判別をある程度行うことができます。股関節外旋位で外転方向に足を開いた時に痛みが強く出る時は股関節外旋位で伸張される大内転筋、股関節内旋位で外転方向に足を開いた時に痛みが強く出る時は、伸張されやすい恥骨筋である可能性があります。 

 

内転筋への抵抗運動を行う場合は、 

①仰向けに寝て足を真っすぐに伸ばして行う場合 

②仰向けに寝て両膝を立てた場合 

③仰向けに寝て片脚を、あぐらをかくように外に開いた場合 

の3パターンで①、②は両膝の間に検者のこぶしを入れて、③は膝の内側を外側へと抑えるように抵抗を加えて、内転方向(足を閉じる)方向に力を入れた時の痛みの強さをみます。 

 

大内転筋の肉離れであれば、足を開いた③で痛みが強くみられます。 

 

長内転筋、短内転筋では①よりも②で痛みが強くみられます。 

 

恥骨筋では、②よりも①で痛みが強くみられます。 

 

しかし、近位部での肉離れの場合はストレッチや抵抗運動では判別が難しく、直接受傷部を押さえて圧痛の有無でみるほうが、どの筋肉の肉離れであるかがわかりやすい場合もあります。 

 

外転方向へのストレッチや内転筋の抵抗運動を行っても痛みがみられない場合や内転筋以外の痛みと考えられる場合は鼠径部痛症候群である可能性もあります。 

 

鼠径部痛の疼痛誘発検査としては以下の徒手検査があります。 

1.片脚内転テスト 

仰向けに寝て検者が片脚の足首を持ち、外転方向に開きます。被検者に内転方向に足を閉じるように指示して、検者は開いた足を閉じようと動かします。 

 

2.Squeezeテスト 

仰向けに寝て両膝を立てます。検者が両膝の間にこぶしを入れて、被検者に両膝で挟むように指示します。 

 

3.両脚内転テスト 

仰向けに寝て両足を軽く開き、検者が足と足の間に両肘を入れます。検者の前腕を両足で挟み込むように力を入れます。 

 

スポーツ選手の鼠径部痛症候群のなかでも、長内転筋の肉離れである確率は半分近くという報告もあります。以前に受傷既往がある場合は再発する可能性は1/3以上であるとも言われています。 

画像検査

鼠径部痛症候群の他の障害との鑑別や、損傷している筋の判別や、筋の損傷の程度、血腫の大きさなどはMRIでみることができます。恥骨など鼠径部の障害と内転筋損傷を併発している場合も多いので、MRIで詳細を確かめることは予後予測や治療方針の決定にも重要です。 

 

MRI検査では、肉離れの重症度の判定を行うことができます。出血や損傷のある部位はMRIでは白く写り、軽度のⅠ度の場合は出血のみが認められ筋肉の損傷はほとんどありません。中等度のⅡ度の場合は、筋肉と腱の移行部での損傷が一部認められ、筋の走行の途絶が確認できます。重度のⅢ度の場合は、腱の付着部での完全断裂が認められます。 

 

超音波検査でも筋腱付着部の肥厚や断裂をみることができますが、より詳細を確認し、予後予測や重症度の判定を行うにはMRI検査が有効です。 

内転筋の肉離れになると競技復帰の期間はどれくらい?

内転の肉離れは切り返し動作や方向転換素早いサイドステップなどを繰り返すサッカーなどでよくみられる障害です。内転の肉離れは、長内転筋の近位(股関節に近い部分)筋腱移行部での損傷が一番よくみられます。次いで大内転筋の損傷が多くみられるとされています。肉離れは重症度や損傷する筋肉によってスポーツ復帰の時期が変わってきます。競技復帰までの期間を重症度別にみていきましょう。 

競技復帰までの期間

肉離れの競技復帰までの期間は軽度、中等度、重度の肉離れの重症度によって異なり、一般的には軽度(Ⅰ度)は1~2週間、中等度(Ⅱ度)は3~6週間とされています。重度(Ⅲ度)の場合は手術が必要な場合もあります。 

 

内転筋の場合は筋肉によっても復帰時期が変わってきます。内転筋の中でも肉離れの発生率が高い長内転筋の筋腹や遠位(膝関節の近く)の場合、大内転筋の肉離れの場合は1~2週間での復帰が可能です。 

 

しかし、長内転筋の近位(起始部に近い部分)や恥骨筋、薄筋の近位の損傷の場合は起始部が恥骨部であり、鼠径部痛症候群がなかなか治りにくいように、競技復帰までには1~2カ月を要します。また、筋腱移行部や腱性部の損傷は時間がかかるとされています。 

 

恥骨筋の肉離れがみられるのは稀ですが、受傷時は痛みが感じられず、恥骨結合炎を伴って後から痛みが出てくることもあります。 

内転筋の肉離れの整形外科での治療

内転筋の肉離れの整形外科での治療は、手術をしない保存療法と手術療法とがあります。手術が必要なⅢ度の重症例は稀で、ほとんどの場合は保存療法が選択されます。

RICE治療

肉離れは受傷によって患部が損傷し出血している状態です。出血、浮腫、痛みを防ぐことを目的として、肉離れを起こしてすぐの48時間以内は、急性期の治療の基本であるRest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上のRICE処置を行います。 

 

1.Rest:安静 

受傷した部分の浮腫や血管や神経の二次的な損傷を防ぐことが目的です。テーピングなどで受傷部分を固定し、安静に保ちます。なるべく受傷した足への荷重は避け、基本的にトイレ・食事以外は動かさずに保ちます。 

 

  1. Ice:冷却

低酸素障害による細胞の壊死や腫れを抑えて損傷を最小限にとどめることが目的です。氷嚢やビニール袋に氷を入れ、受傷部分を冷やします。ビニール袋の場合は氷を入れた後に、空気を口で吸い出して抜きます。患部に直接触れないように、タオルなどをあてて冷やし、冷やし過ぎには注意します。 

 

冷やす時間は15~20分間冷やして感覚がなくなったら外し、また痛みがぶり返してきたら冷やすことを1~3日間繰り返します。15~30分間の冷却を1日3回3日間続けるという方法も有効であるといわれています。 

 

  1. Compression:圧迫

内出血や腫れを防ぐために行います。腫れが予想される部分にスポンジなどをあててテーピングやバンテージなどで圧迫を加えながら巻いて固定します。 

 

  1. Elevation:挙上

腫れの予防と軽減のために、心臓よりも受傷部分を高く挙げた状態で保ちます。 

急性期を過ぎてからの治療

受傷後3日間ほどたち、受傷部の腫れや痛みがひいてきて、歩行や日常生活動作が行なえるようになれば、RICE治療はやめて今度は受傷部分の組織の修復を促すために血流を促す治療を開始します。 

 

温めることや電気、超音波などの物理療法を用います。また、動かさないままでいると筋肉や組織が縮んで硬くなって柔軟性を失い、関節の可動域や運動性が低下するため、関節可動域訓練やストレッチなどのリハビリテーションを開始します。歩行は、初めは松葉杖などを用いて受傷した足は免荷を行いますが、徐々に痛みの状況に応じて両松葉杖→片松葉杖→独歩と支持を減らしていきます。 

 

リハビリテーションで足を動かした後は、一時的に炎症が起こり、痛みや腫れがつよまるので炎症を鎮めるためにRICE処置を行いながら進めていきます。 

 

ストレッチや筋力トレーニング、バランス訓練なども状態を診ながら開始し、歩行や日常生活動作の獲得を目指します。

競技復帰に向けての治療

歩行や日常生活動作が行なえるようになれば、競技復帰に向けてランニング、ダッシュなどの走る動作や競技で想定される動的なバランス動作、キック、方向転換、切り返し、サイドステップなどの動作の獲得・修正を行っていきます。 

内転筋の肉離れの手術療法

腱付着部での完全断裂がみられ、断裂した断端の短縮がみられるようなⅢ度の重症例の肉離れでは手術が行われます断端をンカーという留め具で元の位置へと縫い留めます。菌が断裂している場合は縫合することもあります。 

内転筋の肉離れのリハビリ

内転筋の肉離れの保存療法ではリハビリテーションが行われます。受傷後RICE治療を行い、痛みや腫れが落ち着いたら歩行や日常生活動作の獲得、競技復帰に向けて関節可動域訓練や筋力増強訓練、ストレッチ、動作練習、バランス練習、歩行練習などを行っていきます。手術を行った場合にも早期からリハビリテーションが開始されます。 

保存療法でのリハビリ

物理療法

RICE処置を3日間ほど行い、痛みや腫れが落ち着いてくれば、今度は温熱や電気、超音波などの物理的な力を用いて血流を促し、組織の修復を促していきます。ホットパックなどで患部を温めること、電気や超音波などは血流をよくする効果があります。 

関節可動域訓練

肉離れでは筋組織が損傷して修復する際には瘢痕化が起こり、組織の柔軟性は損なわれ、機能低下がみられます。関節を動かさなければ、関節の可動性は低下し、運動性が低下するので、関節を動かし、関節の可動域、運動性を保つ関節可動域訓練を行います初期は自動運動から開始し、徐々に他動運動で関節可動域の拡大を図っていきます。手術後も早期から関節可動域訓練は行われます。 

筋力増強訓練

筋力増強訓練は筋力トレーニングとも呼ばれます。肉離れの筋力増強訓練は、初期は関節の動きを伴わない等尺性運動から開始します。 

 

内転筋の等尺性運動は、仰向けに寝て両膝の間にボールや丸めたタオルを挟んで内腿に力を入れることを行います。 

 

関節可動域が広がってきたら、徐々に関節の動きを伴う等張性運動筋も開始します。まずは、抵抗をかけずに仰向けや側臥位で足を開いた位置から閉じる動作を行い、仰向けに寝て机などに引っかけたセラバンドに足を通し、内側へと引っ張るなど抵抗をかけて行っていきます。立位が獲得できれば、立位でも行っていきます。 

 

内転筋は骨盤・腹直筋と筋膜を通してつながっているので、骨盤周囲の筋肉や体幹筋の筋力トレーニングや、外転筋と内転筋とのバランスも重要となるので、外転筋の筋力に対して内転筋の筋力低下が残らないように筋力トレーニングを行っていきます。 

ストレッチング

筋の柔軟性を促し、筋の長さを保つ目的で行います。足の裏と足の裏を合わせてあぐらをかくことや、足を開脚して内転筋のストレッチを行うほか、動きの中で内転筋をしっかり伸ばしていくことも行っていきます。 

歩行訓練

受傷してすぐは安静を保ち、荷重しないように努めますが、徐々に受傷した足へ荷重を行い、歩行の獲得を目指します。階段昇降や速歩き、横歩きなどの応用歩行の獲得を行い、競技復帰に向けてジョギングを開始します。 

競技復帰のためのリハビリ、予防

ジョギングから始め、キック動作、方向転換、切り返し動作、サイドステップなど競技に必要な実際の動作の獲得を行います。姿勢や動作のバランス、協調性、筋の出力など、内転筋、鼠径部に負担がかからない動作の獲得が必要となってきます。 

 

同時に、内転筋の肉離れの既往や鼠径部痛症候群があると内転筋の肉離れを起こしやすくなるので、身体全体のアンバランスな部分は修正し、鼠径部への負担の少ない効率的な動作獲得を目指していきます。 

 

内転筋は骨盤の安定に働く他、筋膜を介して体幹の腹直筋ともつながっています。体幹・骨盤との連動性を高めたパフォーマンスを獲得できるように練習していくことが大切です。 

内転筋の肉離れ後にストレッチを行う場合は、ストレッチの行い方や時期、程度などをみながら行うことが必要です。ストレッチのやり過ぎは返って炎症を招き、治りづらくなることもあるので専門家の指導の下、行うようにしましょう。 

 

内転筋の肉離れの原因としては、内転筋損傷の既往、内転筋の筋力低下とともに外転可動域の減少も要因として挙げられており、普段から内転筋のストレッチを行い、外転可動域を確保しておくことは内転筋の肉離れの予防に有効であると考えられます。 

内転筋の肉離れに効果的なストレッチ

よく準備運動としても行われるストレッチのひとつです。 

足先を前方に向けた状態で、片脚を横に開き、腰を落として開いた方の足の内腿を伸ばします。反動はつけずに伸びていると感じるところで静止し、ゆっくり10秒間数えましょう。反対の足も同じように行いましょう。片足ずつ10セット。(図3 内転筋のストレッチ2 参照) 

内転筋のストレッチ2

床に座り、足の裏と足の裏を合わせてあぐらをかきます。両膝を床に押し付けるように上から押します。反動がつけずに上から押さえた状態でゆっくり10秒間静止しましょう。10セット。(図4 内転筋のストレッチ2 参照) 

内転筋のストレッチ3

仰向けに寝て壁に両足を当てます。壁伝いに足を開き、内腿が突っ張るなというところで10秒間静止します。 

 

内転筋の筋緊張が高くなり短縮がみられる場合は、股関節外転筋である中殿筋の筋力低下がみられる場合がありますので、チェックして外転筋の筋力トレーニングも一緒に行い、外転筋と内転筋とのバランスをとるようにしましょう。(図5 内転筋のストレッチ3 参照) 

内転筋の肉離れに効果的なテーピング

内転筋の肉離れ後に競技復帰する際や、内転筋の肉離れの既往がある場合は、内転筋の筋の走行に沿ってテーピングを貼り、内転筋をサポートすることで内転筋への負荷を軽減することが可能です。テーピングで圧迫を与えることにより、精神的な不安の軽減にもつながります。 

 

しかし、内転筋のテーピングによって肉離れが治ることや、絶対に肉離れが起こらないわけではありません。あくまでもサポートですので、トレーニングによって身体の姿勢・動作バランスを整えることは大切です。 

内転筋の肉離れのテーピング

伸縮性のある幅広のテーピングを用意して、太ももの内側部分、膝上から股関節のつけ根に向かってやや引っ張りながらテーピングを貼ります。その上方にやや短めのテープを同じように膝上から股関節のつけ根にかけて貼っていきます。(図6 内転筋の肉離れのテーピング 参照) 

さらに上からぐるぐると太ももを巻くように貼ると補強なります。