鼠径部痛症候群の治療

鼠径部痛症候群とは?

鼠径部痛症候群とは、(groin pain Syndrome:グロインペイン症候群)とも言います。普段、聞きなれない名前ですが、どのような障害なのでしょうか。鼠径部痛症候群がどのような人にみられやすい障害なのかを詳しく説明していきます。 

 

その前に、鼠径部痛症候群とは何か、また、日本では恥骨結合炎と一緒くたにされることもある鼠径部痛症候群ですが、実は恥骨結合炎とは別物として「鼠径部痛症候群」は提唱されています。その辺りの経緯についても詳しくみていきましょう。 

鼠径部痛症候群の基礎知識

鼠径部痛症候群とは、その名の通り、鼠径部に痛みが生じる症候群です。鼠径部周辺とは、股関節のつけ根上部を表し、鼠径部痛症候群が示す部位には、坐骨や睾丸の後ろ側、下腹部、内腿などが含まれます。 

 

鼠径部周辺が痛くなる症状、すなわち、鼠径部周辺部痛には、恥骨結合が炎症を起こして痛みを生じる「恥骨結合炎」や、内転筋の付着部が炎症を起こして痛みが生じる「内転筋付着部炎」、腹直筋の付着部が炎症を起こして痛みが生じる「腹直筋付着部炎」、「疲労骨折」や「剥離骨折」、「鼠径ヘルニア」や、「スポーツヘルニア1)」など、さまざまな疾患が含まれます。 

 

1)スポーツヘルニア: 

鼠径ヘルニアのように、見た目にわかるように外には飛び出しておらず、腹圧がかかったときにだけ超音波上で腸の膨隆がみられる潜在的なヘルニアのこと。 

恥骨結合炎と鼠径部痛症候群は同じ?

日本では、恥骨結合炎イコール鼠径部痛症候群という概念が昔からあり、恥骨部付近や内転筋のある太腿の内側、鼠径部、下腹部が痛くなる症状は、ひっくるめて恥骨結合炎として扱われ、長期の安静が必要とされる障害でした。一方、海外では、恥骨結合炎はスポーツヘルニアによる痛みと考えられ、積極的にスポーツヘルニアの手術が行われていました。 

 

しかしながら、スポーツヘルニアの手術を行っても改善がみられない例や、スポーツヘルニアが存在していても痛みがみられない例があったことから、スポーツヘルニアが必ずしも鼠径部の痛みの原因になっているとは考えにくいということで、「明らかに骨折や炎症、鼠径ヘルニアなどの器質的な疾患がなく、上半身と下半身との連動性に欠けることで運動時に、鼠径部に痛みがみられるものを鼠径部痛症候群」とする定義が生まれました。 

鼠径部痛症候群が好発する年齢・スポーツ・性別は?

径部痛症候群はスポーツ障害のひとつであり、上半身と連動した下肢の動きを得られずに、下肢のみでの運動を繰り返すことで、鼠径部周辺の組織が傷つくことによって起きるとされています。 

 

サッカー選手に代表される障害であり、サッカー選手の中でもプロレベルの選手に多く発症がみられます。このことから、成人でサッカー技術が高く、練習量、運動量も非常に豊富なアスリートによくみられることがわかります。男女差は、女性にもみられますが、男性に多くみられます。サッカーの他のスポーツでは、ラグビー、マラソン、アメフト、野球、バスケットボール、柔道などのスポーツでもみられます。 

なぜ、サッカー選手に鼠径部痛症候群が多いのか

上半身と下半身の連動した協調性のある動きは、柔軟性と安定性によってもたらされています。体幹・骨盤周囲の安定性と、股関節・膝関節・足関節周囲の柔軟性が確保されたうえで、全身のバランスをとりながら、上半身の動きを骨盤を介して下肢へと連動させるような、しなやかで強靭な強調した動きを生み出すことが必要です。 

 

股関節・膝関節・足関節周囲や体幹の柔軟性、体幹の安定性に欠け、上半身と下半身との協調した動きを生み出すことが不十分であると、体幹・骨盤・下肢がバラバラに存在しているだけで、骨盤の動きをともなった効率的な下肢の動きを導き出すことができません。「ボールを蹴る」という動作時に、下肢のみに負担がかかり、結果、鼠径部周辺に痛みを生じることとなります。 

鼠径部痛症候群の解剖学的所見

鼠径部症候群とは解剖学的にどのようなことが起こっている状態なのでしょうか。以前は、恥骨結合炎や内転筋付着部炎、骨折、鼠径ヘルニア、変形性股関節症などの他の疾患もひっくるめて鼠径部症候群と呼ばれてきた時代がありました。 

 

現在では、恥骨結合炎、内転筋付着部炎など、他の疾患として診断がつくものは除去し、片足で蹴る動作を行うスポーツ(サッカー選手に代表される)をしていて、明らかな器質的な障害がみられないにもかかわらず、鼠径部周辺の痛みがみられるものを鼠径部痛症候群とする方向性にあります。 

鼠径部とは

「鼠径ヘルニア」という病名から、鼠径部のだいたいの位置を予想できる方は多いと思います。股関節のつけ根のお腹側です。鼠径部には鼠径管という管があり、鼠径管の中には男性では精巣への血管や精子を運ぶ管、女性では子宮を支えている靭帯が通っています。 

 

鼠径ヘルニアは、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアなどの種類がありますが、外鼠径ヘルニアでは鼠径管の中に腸などの内臓が腹膜に覆われた状態で飛び出してきます。 

 

鼠径管は、鼠径靭帯に付着する腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋がトンネルを成した中を通っており、すぐ近くには、腹直筋も走っています。大腿骨側へは内転筋も走っています。(図1 鼠径部周辺) 

鼠径部痛症候群とその他の障害

鼠径周辺の筋肉や骨格に明らかに炎症や骨折、変形、損傷が生じて痛みを発しているものではなく、鼠径管をはじめとする鼠径部周辺の組織に、繰り返し負荷がかかることで傷つき、痛みを生じているのが鼠径部痛症候群です。 

鼠径部痛症候群が起こるメカニズム

関節拘縮・可動域制限、筋肉の短縮・萎縮、筋力低下がみられる場合や、関節の可動域や筋力は十分にあったとしても、全身のバランスを上手くとることができなかったり、上半身と下半身を効率よく使うことが難しかったりする場合は、足のみの動きと力で蹴る動作を行うこととなります。 

 

本来であれば、「(ボールを)蹴る」という動作を行う時には、片足で立って、もう一方の足を後方に振り上げるために、蹴る足と反対側の肩甲帯を後方に引いてバランスをとり、上肢から体幹、体幹から骨盤、骨盤から下肢の柔軟なしなりを利用して、蹴り出すための準備を行います。 

 

この上肢から下肢までの全身の強調した動きをつくりだせずに下肢のみでの振り出しを行う場合には、下肢を蹴り出すために下腹部、股関節のつけ根(鼠径部)に力が大きくかかります。鼠径部周辺に負荷がかかる動作を繰り返していると、鼠径部周辺の組織が傷つきます。 

 

鼠径部への負荷が積み重なることによって、慢性的な鼠径部の痛みへとつながり、鼠径部の痛みをかばうような身体の使い方となって、より、左右のアンバランスさが協調されたり、腰や膝など、他の部位に負荷がかかるようになったりして、痛みが慢性化していきます。鼠径部痛症候群が治りにくいとされるのは、身体の機能的な問題、使い方の問題が残存したまま、プレーを行い続けることで鼠径部を中心とした身体への負荷が増していき、悪循環へと陥ることにあるのです。 

鼠径部痛症候群の症状

鼠径部痛症候群では鼠径部周辺の痛みがみられます。はじめのうちは、普段生活しているときは痛みを感じず、運動時に痛みを生じます。とくに、しばらくの間、運動を休んでいて、再開し始めた時に痛みがみられやすく、原因となる要因を改善しなければ、悪循環に陥り、症状が悪化していきます。悪化すると日常生活動作でも痛みを生じるようになります。運動時に痛みがみられる場所を指で押すと痛みがみられます。 

 

症状がみられる場所、症状がみられる動作についても詳しく説明していきます。 

鼠径部痛症候群の症状がみられる場所