梨状筋症候群の治療

目次

梨状筋症候群の解剖学的所見

梨状筋はお尻にある筋肉です。梨状筋によって、坐骨神経が圧迫され、お尻の痛みやしびれなどの症状が出る障害を梨状筋症候群といいます。梨状筋とはどのような筋肉であるのか、また、梨状筋症候群はどのような状態になっているのかを、解剖学的にみていきましょう。 

梨状筋とは

梨状筋はお尻にある筋肉で深層外旋六筋と呼ばれる筋肉のひとつです。お尻の筋肉と言えば、大殿筋や中殿筋と言った筋肉の名前をよく耳にします。 

 

お尻の筋肉では、大殿筋がお尻のいちばん表層に位置しています(図1 大殿筋 参照)。

中殿筋は大殿筋の下の層に位置します。

深層外旋六筋は、中殿筋のさらに下層に位置します(図2 梨状筋と周囲の組織 参照)。 

梨状筋の起始・停止

梨状筋は仙骨前部、腸骨(坐骨切痕)、仙結節靭帯から始まり、大腿骨の大転子に付着します 

深層外旋六筋としての梨状筋

深層外旋六筋とは、梨状筋、上双子じょうそうし)筋、下双子かそうし)筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、大腿方形筋の6つの筋肉のことで、股関節外旋に作用する筋肉です。お尻の形を形成している表層の大殿筋や中殿筋と比べると小さな筋肉ですが、深層で骨盤を安定させるために働いている筋肉です(図2 梨状筋と周囲の組織 参照) 

股関節の外旋筋として知られている梨状筋ですが、股関節の角度によりその作用は変化し、股関節屈曲60度以下の場合は、股関節外旋に作用し、股関節屈曲60度以上では股関節内旋に作用すると報告されています。椅子に座った状態では、股関節屈曲90度となるので、梨状筋は股関節外旋ではなく、股関節内旋に働きます。このように肢位によって作用が変化することを筋作用の逆転と呼ばれます。 

骨盤底筋としての梨状筋

梨状筋は、内閉鎖筋、尾骨筋、肛門挙筋とともに骨盤の底を埋めるように位置しています。骨盤底筋は適度な緊張を保って骨盤を安定させているがあり骨盤の上に位置する膀胱や直腸、女性であれば子宮などの臓器を支えています。骨盤底筋が弛緩して緩んでしまうことや、縮んで硬くなってしまうことがあれば、お腹に力を入れる動作をした時に尿漏れが起こったり、骨盤内の血液循環が低下して月経前症候群などのトラブルにつながったりすることもあります。(図3 骨盤底筋 参照) 

梨状筋症候群とは

梨状筋の下層には坐骨神経が走っています。梨状筋によって、下層に走る坐骨神経が圧迫され、臀部の痛みや下肢のしびれなどの坐骨神経痛の症状がみられるものを梨状筋症候群といいます。 

 

梨状筋が過剰に緊張して坐骨神経を圧迫する場合や、梨状筋、坐骨神経の解剖学的破格1)がみられる場合、梨状筋上の腫瘍による圧迫がある場合、殿筋やその他の骨盤周囲の筋とのバランスの不均衡による圧迫、仙骨や臀部の外傷などが原因として考えられます。 

 

*1)解剖学的破格:本来、梨状筋の下層に坐骨神経が走っているが、梨状筋が二層に分かれていて、梨状筋と梨状筋の間を坐骨神経が通るものや、坐骨神経が二股、三股に分かれていて、梨状筋をまたいでいるもの、梨状筋も坐骨神経も分かれていて、坐骨神経が梨状筋の中と外を通るものなど、解剖学的に本来とは異なる構造がみられる。 

梨状筋症候群が好発する年齢、スポーツ、性差は?

梨状筋症候群はスポーツをしている人にみられやすい障害です。梨状筋症候群が好発するスポーツにはどのようなものがあるのか、年齢や性差に特徴があるのかについてもみていきましょう。 

梨状筋症候群がよくみられるスポーツ

梨状筋は、股関節の外旋筋として作用します。股関節屈曲時に比べて、伸展時に、より外旋する作用が強く働くとされています。股関節屈曲時は、筋作用の逆転により、股関節の内旋に働きます。さらには、骨盤底筋として、骨盤を安定させることにも働いています。 

 

梨状筋症候群は、スポーツでは、ランニングでよくみられます。股関節の屈曲・伸展を長時間繰り返すランニングでは、坐骨神経が筋肉に擦れやすいこと、梨状筋への負担が大きくなり、梨状筋が硬くなって坐骨神経を圧迫すること、日頃からスポーツをしている人では筋肉が発達しやすく、坐骨神経へ触れやすくなることなどがあげられます。 

 

ランニングの他にも、走る動作が多いスポーツの、サッカーなどでも梨状筋症候群の発症がみられます。 

 

また、立位でバランスをとりながら、骨盤の回旋を伴って、股関節外旋から内旋へと切り替えるスイング動作を行うゴルフや、小さな硬いサドルに座り続けて股関節の屈伸を繰り返すサイクリングでも、梨状筋症候群がよくみられます。(図4 梨状筋症候群がみられやすいスポーツ 参照) 

 

スポーツで負荷がかかることによって発症する梨状筋症候群では、梨状筋単独の問題ではなく、大殿筋や中殿筋、内転筋、ハムストリングなどの骨盤周囲の筋肉の弛緩や過緊張、バランスの不均衡などがみられることが多く、全身の姿勢や動作を評価し、筋肉の状態や筋肉の働き方、どのような姿勢や動作が原因で梨状筋症候群を発症したのかを見極めていく必要があります。 

スポーツ以外でも梨状筋症候群が好発する条件

梨状筋症候群では、股関節の曲げ伸ばしの動きで痛みが誘発されるので、椅子に座るときや立ち上がるときなどにも痛みがみられます。 

 

長時間座る姿勢をとることでも、坐骨神経が梨状筋に圧迫され、痛みやしびれなどの症状がみられることがあります。例えば、長時間のデスクワークやタクシーや長距離トラックの運転、頻繁な交通機関での長距離移動、自転車走行などがあげられます。 

 

転倒や事故などで、お尻の打撲や怪我をした場合にも梨状筋症候群は起こります。梨状筋や坐骨神経の解剖学的破格がみられる場合にも梨状筋症候群がみられやすくなります。 

梨状筋症候群が好発する年齢、性差

梨状筋症候群は、男性に比べて女性の方が、発症率が高く、男性の6倍の確率で発症すると言われています。また、坐骨神経痛のうち、約6%が梨状筋症候群であるともいわれています。 

 

梨状筋症候群は、骨盤周囲の筋肉の筋緊張の不均衡や、大殿筋、中殿筋などの殿筋群の筋力低下なども関係しているので、男性の方が女性に比べて筋力が弱く、筋肉量も少ないこと、また、女性は妊娠・出産で、骨盤が広がるため、骨盤周囲筋肉のバランスが崩れやすくなること、お尻の筋肉や骨盤底筋群が緩みやすくなることなどが、梨状筋症候群が女性に多い理由として考えられます。 

 

年齢差については、若い世代から年配まで幅広い年齢層でみられ、若い年齢層では、スポーツをしている方が、梨状筋への負担が大きくなって発症することや、大殿筋や中殿筋の筋力低下など、骨盤周囲の筋肉の不均衡による梨状筋の過剰な筋緊張の亢進などが考えられます。中高年以降では、加齢による殿筋の筋力低下や、座りっぱなしである生活習慣の影響などによる梨状筋の過剰な筋緊張の亢進による梨状筋症候群の発症が考えられます。 

 

梨状筋症候群は、いろいろな要因があり、いくつかの要因が組み合わさって起こると考えられますが、妊娠、出産を経験して骨盤の広がりやずれが起こっている女性、スポーツや生活習慣による梨状筋への負担が大きい方、梨状筋、坐骨神経の解剖学的破格がもともとある方などは、梨状筋症候群を起こしやすい傾向にあるといえるでしょう。(図5 梨状筋症候群の要因 参照) 

梨状筋症候群の症状

梨状筋症候群は、梨状筋が、梨状筋のすぐそばを走る坐骨神経を圧迫して様々な症状が現れます。坐骨神経以外にも総腓骨神経、後大腿皮神経、下殿神経、上殿神経など、坐骨神経から枝分かれする末梢神経の障害も生じることがいわれています。 

梨状筋症候群でみられる初期症状

はじめは、お尻の外側に痛みが現れます。鈍痛やチクチクした痛みが慢性的にみられ、しびれなどの感覚の異常もみられます。 

 

お尻の痛みは、股関節を外旋位にすると、梨状筋がゆるみ、痛みが軽快するため、足先を開いて、がに股様の歩行をする傾向がみられます。 

梨状筋症候群でみられる症状

お尻の痛みやしびれがみられてから、坐骨神経の走行に沿って痛みやしびれがみられます。坐骨神経は太ももの裏、ふくらはぎを通り、足先まで伸びているので、太ももの裏やふくらはぎ、足先まで痛みやしびれがみられることもあります。 

 

坐骨神経以外にも、総腓骨神経が障害された場合は膝下外側から足の甲にかけての痛みやしびれ、長母指伸筋の筋力低下によって、足の親指を反らす力が弱くなることがみられます。 

 

後大腿皮神経の障害では、お尻の下の方から太腿の裏のいたみやしびれがみられます。下殿神経が障害されると、大殿筋の筋力低下により、股関節を伸ばす力が弱くなる、上殿神経が障害されると中殿筋の筋力低下により、股関節を外転する力が弱くなることもみられます。 

 

症状が進むと、スポーツはもちろん、歩くことや日常生活で座って行う活動でも痛みを生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。症状が続くと足の筋肉の筋力低下もみられるようになり、やがては関節可動域の制限がみられることもあります。筋力低下や関節可動域の制限がみられると、身体の他の部分に負担がかかり、反対の足の痛みや腰の痛みなどが出てくることもあり、痛みの悪循環を起こすことにもつながります。 

梨状筋症候群の症状が強く現れる姿勢や動作

梨状筋が坐骨神経を圧迫する姿勢で、より、お尻の痛みやしびれが強く現れます。例えば、トイレの便座に座ったときや、椅子や車の座席に座るとき、自転車のサドルに座ったときなどがあげられます。また、走る動作でも症状は強まります。 

 

また、股関節を内旋方向に動かした時に痛みが現れやすく、足を組む姿勢や横ずわりなどでも痛みが強くなることがあります。 

梨状筋症候群の検査

梨状筋症候群は、痛みの出方や程度、場所などを確認し、どのような肢位で痛みが強く出るかをみる、いくつかの徒手検査があります。椎間板ヘルニアなどの他の坐骨神経痛症状がみられる障害との鑑別のために画像検査も行われます。 

触診

梨状筋症候群では、梨状筋の過剰な緊張がみられます。普段はお尻を触っても感じられない梨状筋が硬くなっているのがわかることがあります。 

 

徒手検査

以下のような肢位をとったときに、痛みが強まることがみられます。 

・立った状態で、床へと両手を伸ばした姿勢で、梨状筋と坐骨神経が重なる部分を押さえた場合 

・椅子に座った姿勢で、膝関節を90度曲げて、股関節内旋方向に動かした場合(フレイバーグテスト) 

・椅子に座った姿勢で、検者が両方の膝関節を外側から内側へと押します。押している方向に抵抗するように(股関節の外転・外旋方向に動かす)患者が膝を外側に開くように動かした場合。(ペイステスト) 

 

梨状筋症候群の判断材料として、以上の徒手検査が用いられることがありますが、梨状筋症候群の確定診断を図るためのテストではなく、一つの目安とされている検査にすぎないため、症状や画像検査などと総合して判断されます。 

画像検査

梨状筋症候群であることを画像検査で確認することはできませんが、MRIやCTで梨状筋の肥厚が認められることがあります。 

 

梨状筋症候群と同様の坐骨神経痛を示す、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などの疾患との鑑別のためにCT、MRI検査を行います。 

 

椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、すべり症などの腰部の疾患の場合は、腰痛が認められる場合が多いですが、例外もあるため、画像検査もしないままに、梨状筋症候群であると決めつけて自己判断すると、症状が長引くこともあるので診断を受けるようにしましょう。変形性腰椎症などの腰部の疾患と梨状筋症候群が合併していることもあります。 

坐骨神経ブロックでの判断

お尻の痛みや足の痛み、しびれに対して坐骨神経ブロック(坐骨神経へのブロック注射)を行っても、痛みやしびれなどの症状が改善されない場合は、梨状筋症候群ではないと判断する材料になります。 

梨状筋症候群になると競技復帰の期間はどれくらい?

梨状筋症候群はスポーツを行っている人に度々みられる障害です。梨状筋症候群になると、走る動作でお尻の痛みや足のしびれが強くなるので、競技を中止して治療を行う必要がでてきます。梨状筋症候群では、競技復帰までにどのくらいの期間がかかるのかをみていきましょう。 

梨状筋症候群になって、競技復帰までの期間

梨状筋症候群となって、競技が再び可能になるまでの期間は、症状や程度によっても変わってきます。梨状筋症候群の重症度の分類の定義はなく、まずは、本当に梨状筋症候群であるのかという判断、診断が大切となってくるでしょう。 

 

梨状筋症候群でみられる、お尻の痛みや足のしびれ、痛みなどの症状は、腰部の疾患によって坐骨神経が圧迫されることでも起こります。腰部の疾患の治療と、梨状筋症候群の治療では、治療方法が異なってくるので、最初の診断を誤ると適切ではない治療によって症状が長引くこともあり得るのです。 

 

しかし、梨状筋症候群と診断するための明確な検査や定義などは存在せず、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの他の疾患の除外と、医師の判断によるところが大きいため、梨状筋症候群の診断は難しいとされています。梨状筋症候群に詳しい医師のもとで診断、治療を受けることが望ましいでしょう。 

 

梨状筋症候群の病態自体、不明な部分も多く、要因も様々です。大殿筋や中殿筋の筋力低下により、梨状筋過剰な筋緊張などが原因で坐骨神経の圧迫が認められる場合は、1~2か月間、大殿筋、中殿筋の筋力強化を図り、姿勢や動作の修正を行うことで競技復帰が可能となる場合もあります。 

 

梨状筋や坐骨神経の解剖学的破格があり、症状が長引く場合は手術が必要となることもあり、手術を行った場合は、術後の経過により3~6カ月程度競技復帰までに期間を要すこともあります。診断がなかなかつかなかった場合や、適切な治療を開始できなかった場合、術後の経過が思わしくなかった場合などは、競技復帰までに1年近く、もしくはそれ以上の期間を要することもあります。 

 

梨状筋症候群の整形外科での治療

梨状筋症候群では、どのような治療法があるのでしょうか。整形外科では、手術を行わない保存療法と、手術を行う手術療法とに大きく分けることができます。整形外科で行われる一般的な治療法について詳しくみていきましょう。 

薬物療法

お尻や足の痛みを軽減するために消炎鎮痛剤や神経痛に有効な薬、筋弛緩薬を服用することがあります。根本的な解決には至りませんが、一時的な痛みの軽減には有効です。 

 

梨状筋への局所麻酔薬の注射(ブロック注射)を行うことも痛みの緩和に有効であり、ブロック注射のみで症状が改善される場合もあります。 

痛みの出る姿勢を避ける

椅子に座る、自転車をこぐなどの座る姿勢や、走る動作で痛みが増強しやすく、痛みが出る姿勢や動作を避け、坐骨神経の圧迫を取り除くことも大切です。スポーツで増強する場合は、スポーツを中止します。 

 

物理療法

梨状筋の過剰な筋緊張による萎縮などから起こっている場合が多く、血行を良くして筋緊張を緩めるために、温熱や電気などの物理的な力を用いて治療を行うこともあります。 

 

運動療法で筋肉を動かす前の準備として、ホットパック(ジェル状のパッドを温めたもの)や電気を患部にあてて、硬くなった筋肉を軟らかくして、動かしやすくすることは臨床の場で、良く行われています。 

運動療法

運動療法はリハビリテーションといわれることもあります。硬くなって萎縮している梨状筋のリラクゼーションと、骨盤の安定性と運動性の改善、大殿筋、中殿筋の筋力強化などを行い、梨状筋だけではなく、周囲の筋肉とのバランスを整え、骨盤、体幹、股関節の連動した動きを引き出すように、マッサージ、ストレッチ、関節可動域訓練、筋力強化訓練、バランス練習、動作練習などを行っていきます。 

 

梨状筋症候群の運動療法は、85例中73例の86%に有効であったという報告もあります。3) 

 

3)参考:981 梨状筋症候群に対する運動療法の考え方とその成績 山﨑雅美、林 典雄、赤羽根良和、中宿伸哉、吉田 徹(MD) 吉田整形外科病院リハビリテーション科 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2004/0/2004_0_C0981/_pdf 

手術療法

神経ブロック注射や保存療法を行っても、痛みが改善せず、日常生活に支障をきたす場合、スポーツ復帰に手術が有効であると判断した場合には手術を行うことがあります。 

梨状筋切離術

手術は、坐骨神経を圧迫している梨状筋の切離を行い、坐骨神経の圧迫をとり除くことを行います。梨状筋の筋肉自体を切る場合、大腿骨大転子の付着部の腱鞘を切開する場合があります。 

 

梨状筋切離手術では、手術の時に切った傷の突っ張り感や傷が肥厚化すること、手術の際に筋肉を触るので、殿筋の筋力低下などがみられることがあります。梨状筋切離術で、痛みが改善されることもありますが、一部の症例では、血腫や瘢痕化が起こり、坐骨神経の圧迫がとり除けない場合もあるようです。 

梨状筋症候群のリハビリ

梨状筋症候群の治療のひとつにリハビリテーションがあります。梨状筋症候群のリハビリではどのようなことを行うのかを詳しくみていきましょう。

リラクゼーション

梨状筋症候群では梨状筋の筋の硬さ、萎縮がみられます。通常、筋肉の硬さ、萎縮がみられたら、マッサージなどで筋肉の緊張を和らげ、筋肉の柔軟性を促すことを行いますが、梨状筋症候群の場合、骨盤底筋として骨盤の安定性にも関与しており、梨状筋のリラクゼーションを行うことで骨盤の安定性の低下や骨盤のゆがみを招くリスクもあります。 

 

梨状筋症候群は、梨状筋単独の障害ではなく、骨盤周囲の筋肉、股関節周囲の筋肉のバランス、骨盤のアライメントの影響もあるため、相互の作用をみながらリラクゼーションを図る必要があります。 

 

「梨状筋症候群=梨状筋が硬くなる=硬くなった梨状筋をほぐす」治療で改善される障害ではありませんので、ただマッサージでほぐすのではなく、ホットパックなどで物理的に筋の緊張を和らげることや、自動的な股関節の外旋運動を行って、梨状筋を働かせることによって筋肉の緩みを促すことなどで、筋肉を働かすこととセットでリラクゼーションを行う必要性があります。 

ストレッチ

ストレッチは、筋肉の緊張を和らげるので、リラクゼーションの一環として行われる場合もあります。梨状筋のストレッチももちろんですが、大殿筋や中殿筋の筋力低下が起こって萎縮している場合もあるので、大殿筋や中殿筋のストレッチ、また、股関節内転筋やハムストリングなど、股関節周囲の筋肉も硬さがみられる場合はストレッチを行っていきます。 

 

梨状筋単独の問題で梨状筋症候群が起こっているのではないことを頭に入れたうえで、姿勢や動作を確認しながらストレッチを行う必要があります。 

関節可動域訓練

股関節の外旋、内旋、外転、伸展の動きや、骨盤の前後傾、挙上と下制、回旋の動きが左右バランスよく行えるように他動的、自動的に運動を行っていきます。硬さが強くみられる場合は、他動的にしっかり動かし、スムーズな関節運動を確保することも必要ですが、動作時に効率の良い運動を促し、梨状筋症候群の改善、予防を図るためには、自動的な運動の中で関節可動域の改善を促していくことも大切です。 

 

自動運動の場合は、最初からMAXの可動域を動かすのではなく、小さい範囲から動かしはじめ、筋肉を緩めてから徐々に可動域を拡げていく方が筋のスムーズな動きを引き出すことができます。 

筋力トレーニング

梨状筋症候群では、大殿筋や中殿筋といったお尻の表層にある大きな筋肉の筋力低下が起こり、深部の梨状筋が過剰に緊張して硬くなっている場合が多いため、梨状筋の筋力トレーニングとともに、筋力低下が認められる場合は大殿筋、中殿筋の筋力トレーニングも行います。 

 

加齢による筋力低下がみられ、梨状筋症候群が起こっている場合は、大腿四頭筋や体幹筋の筋力低下が認められることも多いです。全身の評価を行い、筋力低下がみられる筋肉に対して筋力トレーニングを実施し、筋力を確保したうえで、姿勢バランス練習や動作練習を行い、筋肉の効率よい働かせ方を学習していくことが大切です。 

梨状筋の筋力トレーニング

梨状筋は、筋作用の逆転が起こり、股関節屈曲60度以下で外旋に働きます。よって、股関節を軽く曲げた状態での股関節外旋運動を行い、筋力トレーニングを行っていきます。 

 

1.横向きになって寝て、股関節を軽く曲げ、膝関節は90度に曲げておきます。 

2.上にある足の膝を開くように動かし、10秒静止してゆっくりと力を抜きましょう。このとき、骨盤の回旋の動きを伴わないように、腰の位置は動かさずに行うことがポイントです。 

3.はじめは自分の足の重さだけで重力に抗して行います。慣れてくれば、セラバンドを両方の膝上あたりに通して、軽い負荷をかけて行うのも良いでしょう。(図6 梨状筋の筋力トレーニング 参照) 

大殿筋の筋力トレーニング

大殿筋は主に股関節の伸展に作用する、お尻の表層の筋肉です。大殿筋の筋力トレーニングの代表的なものにヒップアップがあります。 

1.仰向けに寝て両膝を立てます。 

2.床からお尻を浮かして10秒止まります。お尻の穴をギュッと閉じるイメージで行い、腰は反らさないようにします。手で床を押す力で代償できてしまうので、手は床ではなくお腹の上に軽く乗せておきましょう。 

3.片足の膝を伸ばして上げて置き、片足でヒップアップを行うことで、負荷が大きくなります。 

 

うつ伏せに寝た状態で、片方の足をお尻から上げ、10秒止めてから下ろすことでも行えます。(図7 大殿筋の筋力トレーニング 参照) 

中殿筋の筋力トレーニング

中殿筋はお尻の外側の筋肉です。 

1.横向きに寝て、上にある足の膝を伸ばしたまま、上にあげ、10秒止めます。 

2.ゆっくり足を下ろします。10回繰り返します。 

3.足をあげた時に腰を反らしたり、体がグラグラ動いたりしないように意識して行いましょう。左右の足を変えて同じように行いましょう。負荷をかけたいときはセラバンドを両足に通して行うと良いでしょう。(図8 中殿筋の筋力トレーニング 参照) 

バランス練習・動作練習

ストレッチや関節可動域訓練で過剰な緊張のみられる筋肉の柔軟性を促し、筋力トレーニングで筋力をつけ、基礎的な土台をつくったら、実際に姿勢のバランスをとることと、動作を行うときに、筋肉を上手に働かすことを促していきます。他の筋肉とのバランスや、安定性、運動性を動的なバランスの中でみていきます。 

 

片脚立ちや、一歩前に踏み出したステップ肢位でのバランス、スクワットなどの立位バランス練習や、歩行練習、日常生活で必要な動作練習、スポーツで必要な動作の練習などを行っていきます。実際の動作を確認して、効率の良い運動の仕方を身につけることで、梨状筋症候群の予防にもつながります。 

競技復帰に向けたトレーニング

競技復帰を目指す場合は、ランニングや、競技に必要な動作を段階的に練習していきます。筋力トレーニングもマシンなどを使って徐々に負荷を大きくしていきます。筋力だけではなく、筋持久力や体力の回復も同時に図っていくことが大切です。 

梨状筋症候群に効果的なストレッチ

梨状筋症候群では、梨状筋の硬さがみられるため、ストレッチが有効です。梨状筋の柔軟性を保つことで梨状筋症候群の予防にもなります。どのようなストレッチがあるのかをみていきましょう。 

テニスボールを使ったストレッチ

梨状筋症候群の自分でできる簡単なストレッチでは、テニスボールを使ったストレッチがあります。 

1.お尻の梨状筋が走行する位置にテニスボールをあてて座ります。お尻でテニスボールを踏んづけている状態です。 

2.梨状筋にあたるように、お尻でテニスボールを押します。いた気持ちいいぐらいの刺激でとどめ、強い痛みが出ないように気をつけましょう。 

(図9 テニスボールを使ったストレッチ) 

 

痛みの刺激は筋肉を収縮させますので、緩めたい緊張が、反対に強まってしまいます。ストレッチの基本ですが、息を止めて反動をつけたりせず、ゆったりと息を吐きながらリラックスして行いましょう。テニスボールが辛い場合は、棒状に丸めたバスタオルの上に座ることから始めてみましょう。 

梨状筋のストレッチ

梨状筋、殿筋のストレッチ方法を3つ説明していきます。いた気持ちよいぐらいに筋が伸ばされていると感じるところで、10秒間静止し、緩めることを10回繰り返しましょう。10回1セットを2~3セット、1日2~3回行うのが理想です。 

梨状筋ストレッチ1

1.あぐらをかくようにして座り、片足は後ろへ伸ばす。 

2.両前腕を床に着けるように身体を前に倒し、10秒静止し、身体を少し起こして緩める。 

3.あぐらの形になっている前にある足のお尻の外側の部分が伸ばされます。 

4.左右の足を入れ替えて同じように行います。 

梨状筋ストレッチ2

1.仰向けに寝て、片方の足の膝を立てます。 

2.膝を立てた膝を反対の足の方へ倒すように動かします。(股関節内旋方向に動かします。) 

3.倒した足のお尻の外側が伸ばされていることを確認し、10秒間静止して戻ります。 

4.左右の足を入れ替えて同じように行います。 

 

梨状筋ストレッチ3

1.仰向けに寝て、片膝を立てます。もう一方の足を、片膝を立てた足の上であぐらをかくような形でのせます。 

2.両手で、片膝を立てた足を抱えて胸の方にひきつけます。 

3.10秒間止まり、緩めます。左右の足を入れ替えて同じように行います。 

(図10 梨状筋のストレッチ 参照)